第二講 二格の副詞句

Sie harrte[註1]harren: warten に同じ。 klopfenden Herzens.
  彼女は胸躍らせて待っていた。

mit klopfendem Herzen (高鳴る心を以て)という代りに,少し調子を上げて詩的に表現しようとすると,mit を除いて,あとの部分を二格にすることがあります。ちょっと妙な二格ですが,類例で語感を慣らす必要があります:

Er stand gesenkten[註2]senken: 沈める,伏せる,おとす。 Hauptes da.
かれは頭をうなだれてたたずんでいた。
Er hörte nur halben Ohres darauf[註3]darauf: 注意して耳を傾ける,の意味の時には hören は auf を支配する。.
かれはそれを好い加減に聴いていた。
Sie sah mich prüfenden[註4]prüfen: 検べる,吟味する。 Blicks an.
彼女はじろじろと私の顔を見た。
Wie gelangt man trockenen Fuß es hinüber[註5]hinübergelangen: 向う側に達する,渡る。 ?
足をぬらさずに向うへ渡るにはどうしたらよかろう?
Sie saß wie abwesenden[註6]abwesend: 「お留守の」(即ち,そこに居ない,欠席の)という形容詞。 Geistes da.
彼女はまるで気がぬけたようにポカンと腰かけていた。

こういう副詞句の出来あがるのには,多少の条件といったようなものがあります。それは,まず第一には,名詞だけでは駄目で,上でごらんになるように,かならず形容詞か分詞が前にかぶさっているということ。次には,名詞のうしろに -s があると口調がととのう関係上,男性名詞と中性名詞の単数が好まれるということ。第三には,冠詞は必ず省かれるということ。最後には,名詞は,Haupt, Kopf, Auge, Mund, Fuß, Leib, Herz その他,肉体の部分を意味するもの,或いはその機能に関するもの(Mut 気持,Geist 心,Schritt 歩み,Blick まなざし;Lauf 走行,Flug 飛翔,Gewissen 良心,etc.)が大部分だという点です。たとえば:

lebendigen Leibs 生きながら
feuchten Auges まなこをうるませて
raschen Schrittes 足ばやに
getrosten[註7]getrost:「悠々たる」の意の形容詞,べつに過去分詞ではない。 Mutes 落ちつき払って
stumpfen[註8]stumpf: 鋭い。 Sinnes 鈍感に
wankenden[註9]wanken: よろめく。 Ganges よたよたと
schweren Gewissens[註10]Gewissen, n.: 良心。 うしろめたい気持で

熟語が多い

肉体の一部・心身の機能を意味する名詞が必須条件ということは,昔からある既成の熟語にはあてはまりません。また,そんなものは勝手に作るわけには行かないので,形と用法とが,それぞれ習慣に固定してしまっています。

(1) seines Zeichens (職業は)等:
Er war seines Zeichens ein[註11]こういう風に,職業を挙げるときには普通は冠詞をつけないものですが (Er war Antiquar),seines Zeichens というと次にはしばしば不定冠詞を附ける習慣があります。 Antiquar.
  かれは商売が古本屋だった。
(2) leichten Kaufs [註12]leichten Kaufs: 「多くの費用をかけずに」という意から,費用はつまり犠牲のことであるから,「大した犠牲も払わずに」の意となったもの。 (おいそれと):
Leichten Kaufs werden wir uns nicht ergeben ![註13]sich ergeben: 投降する,降参する。
  おれたちは,そうオイソレとは降参しないぞ!
(3) stehenden Fuß es[註14]stehenden Fuß es: 「立ったままの足で」(即ち,一度腰をおろして考えこんだりなどしないで)が「即座に」の意となったもの。(ラテン語の stante peae であるから,ラテン語を知っている人には,ラテン語の ablativus cum infinitivo とこの種の二格の用法との類似性がうなづけるであろう。) (即座に):
Er willigte stehenden Fuß es drein.[註15]drein willigen: 承諾する
  かれは即座に承諾した。
(4)letzten Endes(結局は):
Der Mensch ist ja letzten Endes ein Tier.
  人間も結局は動物である。
(5)rechter Hand, Linker Hand (右手に,左手に):
Sie sehen rechter Hand den Kaiserlichen Palast.
  右手に見えるのが宮城であります。
(6)zweiter Klasse, dritter Klasse (二等で,三等で):
Ich fahre dritter Klasse, denn eine vierte Klasse gibt es nicht.
  僕は三等で行く,だって四等なんてのは無いからさ。
(7) höheren Orts (上の方で):
Weiß nicht, das hat man höheren Orts so beschlossen.
  さあよく存じませんけど,なんだかそういう風に上の方から決めて来たんです。
(8)meines Erachtens 愚考する所によれば
meines Ermessens (同)
meines Dafürhaltens (同)
meines Bedünkens (同)
(9)meines Wissens  私の存ずる所では
(10)meines Erinnerns  私の記憶する所では

いろいろとありますが,すぐ必要なものは以上のようなところでしょう。句によると,一語に書いて höhernorts (上の方で),höchstenorts (畏きあたりに於て),andernorts (別な個所で),meinesteils (私と致しましては)などとしますが,これは次講にゆずります。

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