第四講 評価的副詞

Wer zuletzt lacht, lacht am besten.
  最後に笑う者が最もよく(??)笑う。

これは,非常に有名な諺であるだけに,用い所もよく知っておかねばなりませんが,同時に,語学的にいって,非常に厄介な問題がいちばんおしまいのところにチョットかくれています。大抵の人は,わかったようなわからないような,わからないでいてしかも見当は大体はずれないような,しかも見当は大体はずれていないくせに,なぜそういう意味になるのかといってきかれると,「最もよく笑う」というのが何のことやら,考えるほどわからなくなる……要するに,これはちょっと究明を要します。

この諺の用いどころは,我国の「細工は流々仕上げをご覧じろ」と大体よく似ています。人の事を笑っていると,今に自分の方が笑われる,過早に人を笑うな,ということです。

もしそうならば,どうして「最もよく笑う」というのでしょう?「よく笑う」という日本語は,「女の子たちはつまらないことでよく笑う」などという際の「よく笑う」とよく似ていますが,そんな「よく笑う」ではなさそうです。もしそうだったら「よく」は普通の関係で「笑う」という動詞を規定している副詞,すなわち「様相を形容する副詞」です。すなわち「笑い方」が「よい笑い方」或いは「分量の多い笑い方」だということになります。しかし,それでは意味をなしません。ここにはなにか,すこし性の変った副詞対動詞の関係が潜在しているにちがいないということが想像されます。

まず,便宜上,この am besten を mit dem meisten Recht (最も多き正当さを以て)といいかえてみましょう:

  Wer zuletzt lacht, lacht mit dem meisten Recht.

或いは,もっと単純形として:

  Er lacht mit Recht. (笑うも道理)

という文において,どうして「笑うも道理」或いは「笑うは正し」ということを「道理をもって笑う」,「正しさをもって笑う」というのでしょう?

こういう妙な副詞は,まだいろいろとあります。たとえば umsonst, vergebens, vergeblich, fruchtlos は「甲斐なく」,「徒らに」,「益なく」,「無駄に」ですが:

  Er lacht umsonst. (笑えど益なし)

つまり「笑ったって駄目だ」ということを「駄目に笑う」というわけです。もっとも,この場合には日本語にも「無駄笑い」という言い方があって,この「無駄」はドイツ語の umsonst にそっくりです。その反対は:

Er lacht nicht umsonst.
笑い甲斐がある。
Er lacht mit Erfolg.
笑い栄えがする。

この最後の「何とかばえがする」というのにあたる mit Erfolg(成功を以て)あたりが,もうだいぶ lacht am besten に
近づいてきたことが感じられます。「やり栄えがする」とか「使い栄えがしない」とかいう此の「栄え」はいったい何でしょう?
これはつまり,まるで成績のように見立てて,点数をつけるわけです。だから:

Wer zuletzt lacht, lacht mit dem meisten Erfolg.
最後に笑う者が最も笑い栄えがする。

といったってよいところです。

以上,いわゆる評価的な副詞或いは副詞句の,最も普通なものの見本を二三ならべて見たわけですが,大して理窟を考える頭のない人でも,こういう風にならべてみると,何処かこう普通の副詞や副詞句とはちがった関係で動詞に結びついていることが漠然と感ぜられるにちがいありません。つまり,大抵の副詞は,動作の「様相を客観的に形容する」はたらきをもっていて,たとえば spöttisch lachen (嘲弄的に笑う)といえば,その笑い方が嘲弄的であることを客観的に描写するにすぎませんが,mit Erfolg lachen (笑い栄えがする)という mit Erfolg には「主観的な評価」が表現されています。主観的な評価というのは,つまり,その文章を口にする人の下す判定です。

これでわかるでしょう。「最後に笑う者が最もよく笑う」における「最もよく」は,下された判定,加えられた評価なのです。

ついでに,am besten とか besser とかを主観的或いは評価的副詞として用いる場合にちょっと触れておきましょう:

(A) Sie gehen besser zum Arzt.
それよりお医者さんの所へおいでになった方がおよろしいでしょう。
(B) Am besten gehen Sie zum Arzt.
いちばん好いのは医者におかかりになることですね。

この am besten を「いちばん好いのは」と訳したのは単に日本語の都合にすぎませんが,なんならそういう訳語で記憶しておいてもよいのでしょう。殊に初歩の人に教えるような立場にあると,理屈よりは訳語,というよりはむしろ「訳語が最もよい理屈」ですから,besser は,評価的副詞の際には「もっとよいところをいうならば」と考え直せ,am besten は「最もよいところをいうならば」といったように,その文を口にする人の意見が露骨に表面に現れるような訳語でおしえた方が,少しどぎつくはありますが,結局はいちばん有効です。

結論として,Wer zuletzt lacht, lacht am besten. は,「笑いたければ最後に笑え」或いは「いちばんよいのは最後に笑うことだ」とでもいって am besten をわからせるのが……いちばんいいということになりますかな。