第五講 助詞的副詞は必ずしも動詞のみと関係せず

Günter las zuerst den Brief.
  1. まず Günter が最初にその手紙を読んだ。
  2. Günter はその手紙をまず読むのが最初だった。
  3. Günter は最初にその手紙を読んだ。

こんな文章がよく出て来ますが,だいたい前後関係でその時時の意味は読者によくわかるにしても,前後関係なしにこの文章が与えられたとしたら,たとえドイツ人でも,さあ,何のことやらさっぱりわからない。「まず」とか「最初」 (zuerst) とかいったって,何か最初やら,これではわかるわけがないのです。

これを実際発音するときには,アクセントの置き方で,何が最初だったかをわからせることができます。Günter だけを特に強めて G ü n t e r las zuerst den Brief. と読めば,この強められた G ü n t e r が日本語の「が」の役目をつとめて,「まず Günter が最初にその手紙をよんだのだ」という意味に受けとれます。その次には l a s を特に強めて読んでごらんなさい。読むのが最初で,翻訳するとかコピーを取るとかいうことは第二段であったように受けとれます。その次には den Brief を強めて発音すると,こんどは,手紙を最初に読んだ,原稿の方はその次に読んだといったようにきこえるでしょう。

さあ,大変なことになって来ました! Günter las zuerst den Brief. という文章は,zuerst 以外に三つの文章要素(1. Günter. 2. las. 3. den Brief)を持っていますが,してみると,zuerst という副詞は,原則として,その文章内に存するかぎりのすべての要素と結合することができる。要するにまるでパンパン[註1](編集)連合国軍占領下の日本において,進駐軍兵士を相手に商売していた娼婦。みたいな女で同じ家の中に三人男が居れば三人とも関係のある男だ……ということになります。

この場合は,可能な亭主が三人あるから,子供も従って三種類生ずるというわけで,四人あったら四種類,五人あったら五種類ですか……大変な女ですね,この zuerst というやつは!

他にこんな女が居るでしょうか?います。銀座の裏通りなんか歩いていると,ウヨウヨいる。曰く auch,曰く nur,曰く besonders (特に),曰く zuletzt (最後に),曰く wenigstens (すくなくとも),曰く gerade (……に限って),曰く ausgerechnet (わざわざ,物もあろうに,人もあろうに,事もあろうに),nun gar vollends (……に至っては),その他,いわゆる「助詞」というのはすべてこれで,遂には nicht という否定詞までがこの部類にはいってしまうのです。nicht が何を打ち消すか,などというむつかしい問題の依って以て生ずる所以のものは,すべてこれ,これらの副詞(というのは本当は誤で,何かもっと別な言葉がなくてはいけないところです —– 習慣では助詞ということになっています……)の持っている,誰とでもくっつきたがるパンパン性にあるのです。

けれども,実際的にいって,Günter las zuerst den Brief. (あるいは Günter las den Brief zuerst. という順も可能ですが)が,そんなに三種の解釈が生じたりなどしては,実際問題として困りはしないか?何か多少意味を限定するような実際的な方法がないのか?これは誰しもすぐ考えることだろうと思います。

そうした方法はないでもありません。まず第一には,ちょっと触れたはずですが,実際に発音する際にはアクセントの置きどころで,書いたり印刷したりするときには,下線もしくは隔字体の使用です。

A. G ü n t e r las zuerst den Brief.
まずギュンテル最初に手紙を読んだ。
B. Günter l a s zuerst den Brief.
ギュンテルは手紙を読むの最初だった。
C. Günter las zuerst den B r i e f.
ギュンテルが読んだのは手紙最初だった。

その次には,Günter という主語に zuerst を関係させるとき,即ち上掲の A の場合にかぎって,als erster (第一着の人間として)という句がよく用いられます。

Günter las als erster den Brief.
ギュンテル最初に手紙を読んだ。

あるいは,この場合には,あとで述べる「語順」あるいは「配語法」という手段を併用して:

  Günter als erster las den Brief.
   (Günter zuerst las den Brief.)

ともいうことができます。

こんどは,第二の B の場合,すなわち「読むのが最初だった」の場合ですが,これは als erstes (まず最初の行為として)を用いて:

  Günter las als erstes den Brief.
   Als erstes las Günter den Brief.
   Als erstes l a s Günter den Brief.

などという方法が可能ですが,それ以外に:

  Das erste, was Günter tat, war den Brief [zu] l e s e n.

と,隔字体を併用するとなお念が通ります。zu はあってもなくても全然同じですが,無い方が普通です。

こんどは C すなわち den Brief に zuerst を関係させる方法ですが,これは,形式的に考えると,Günter las als ersten den Brief. とでもいってはどうかということが,上例の当然の延長として一応は考えられそうですが,これは,私の存ずる限り,ドイツ語の習慣には,まだ無いようです。あると大変いいでしょうが,事実として語感が許さないことはどうにも致しかたがありません。この際与えられた方法としては,また例の隔字体を用いて:

  Günter las zuerst den B r i e f.

というか,或いは語順の心理を利用して:

  (A) Den Brief zuerst las Günter.
   (B) Zuerst den Brief las Günter.

というかです。B の方はあまりよくありません。A の方が普通です。

しかし,以上のような厄介な問題は es ist と dass (また関係代名詞)とによって簡単に解決することもできます。(日本語の方では「が」という助辞がすべてを解決するのですが,ドイツ語の es ist …… dass (その他) …… という形式は,つまり日本語の「が」に該当するものだということができます):

(A) Es war Günter, der zuerst den Brief las.
1. 最初に手紙を読んだのはギュンテルであった。
2. ギュンテルが最初に手紙を読んだ。
(B) Lesen war es, was Günter zuerst mit dem Brief tat.
1. ギュンテルがその手紙を手にしてやった最初のことはそれを読むということであった。
2. 読むということが,これがギュンテルがその手紙を手にしてやった最初の行為であった。
(C) Es war der Brief, den Günter zuerst las.
1. ギュンテルが最初に読んだのは手紙だった。
2. 手紙がギュンテルの読んだ最初のものだった。
(D) An jenem Abend war es, dass Günter zuerst den Brief las.
1. ギュンテルが最初にその手紙を読んだのはあの晩だった。
2. あの晩にギュンテルははじめて其の手紙を読んだのだった。

最後には,今までに出なかった第四の要素を加えてみたわけですが,かくの如くにして,zuerst が何と結びつくかという問題は,
原則的には無限にひろがって行く傾向があります。


こんどは,auch を例にとってみましょう。

Günter las auch den Brief.
1. ギュンテルもその手紙を読んだ。
2. ギュンテルはその手紙を読みもした
3. ギュンテルはその手紙も読んだ。

こんども全然同じで,どの語に力を入れて読むかによって三通りの意味を生じます。

ただ,Günter auch (または Auch Günter)las den Brief. という順にすると,「ギュンテルも」の意味だけに限定されます。

すべて同じことですが,更にもう一例:

Günter las wenigstens den Brief ?
1. せめてギュンテルだけはその手紙を読んだろうね?
2. ギュンテルはその手紙をせめて読んだのだろうね?
3. ギュンテルはせめてその手紙だけでも読んだのだろうね?

これも,Günter と結びつけるためには Günter wenigstens las den Brief. といった方が誤解が生じなくてよいわけです。

その他 nur にしても schon にしても何にしても,原則として,すべてこの調子です。ですから,これを解決するために,前に zuerst について述べたような,種々の補助手段,たとえば配語法の異例などが発達してきているわけです。

副詞というと,狭い意味では,すべて「動詞を規定修飾する」ものですが,nur や auch や wenigstens や besonders (特に) や zuerst などは,その意味においては「副詞」ではなく,名詞とも結びつけば形容詞とも結びつき,また前置詞とも接続詞とも結びつきます。nur mit der Bahn (ただ電車でのみ)といえば nur は mit と結びついており,nur wenn er kein Geld hat (ただ金がない時だけ)といえば,接続詞と結びついているわけです。

以上はほんの暗示にすぎません。こうした「考えの上での結合」という現象を詳述することは,この書の枠内では不可能です。

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