第六講 副詞句の併置

Links auf der Bank sitzt eine alte Dame.
  左手のベンチに一人の年寄りの婦人が腰かけている。

日本語では「左手に・ベンチの上に」と,二つも副詞句のようなものを並べて置くことはできませんが,ドイツ語ではむしろこの方が普通なのです。

もっとも,日本語の「左手のベンチに」或いは「左手にあるベンチの上に」に似た構造も用いないのではありません。それは:

  Auf der Bank links sitzt eine alte Dame.

と links を Bank の直後に附加すると,ちょうど名詞の二格を附加したように,Bank を「規定」する関係になります。「あすこの家」を das Haus dort と云い,「この本」を das Buch hier というのと同じです。

けれども Links auf der Bank の方は,それとちがって,「左手において,ベンチの上において」といったような関係なので,いわば二つの副詞をならべて置いたような恰好になっています。二つの副詞をならべて置く際には,たとえば links und rechts とか links oder rechts とかいったように,und とか oder とかで結合するのが普通なのに,この場合においては,そんな接続詞を介せずに,links と auf der Bank とが直結しているのです。お互いに独立した二つの句でありながら,しかも密接に結びついているということ,これがこうした併置副詞句の特徴です。二三類例をならべてみましょう。

(1) Die Mutter schafft[註1]schaffen: schaffen には「仕事をする」,「雑用をする」の意がある。この場合は schaffen, schaffte, geschafft という規則的な三要形によって,「創る」,「創造する」の意の schaffen (schuf, geschaffen) と区別される。 zu Hause in der Küche.
母は自宅の勝手で用事をしている。
(2) Er saß nebenan im Kaffeehaus.
かれは直ぐ隣の珈琲店にいた。
(3)Sie wartet dort an der Ecke.
彼女はあすこの町角で待っている。
(4)Drüben auf dem Friedhof steht eine alte Frau.
向うの墓地に一人の老婆が立っている。
(5)Die Kinder spielen im Garten auf dem Rasen.
子供たちは庭の芝生で遊んでいる。

こうして併置された二つ(或いは二つ以上のこともあります)の副詞が,二つの離れた句であるということは誰にもよくわかりますが,その反対の方の傾向,すなわち,その二つが文法的に密接に結合してまとまった一句を成しているのだ,という方の事実は,とかく見誤られがちです。この点を具体的に確認せんがためには,たとえば:

  Die Kinder spielen im Garten auf dem Rasen.

を,定形倒置の文になおして見るとよくわかります。即ち,im Garten auf dem Rasen という二重の句は,そのまま文頭
に置いて:

  Im Garten auf dem Rasen spielen die Kinder.

としてもよいのです。もちろん Im Garten spielen die Kinder auf dem Rasen. ということもいえないわけではありませんが,それでは与えられた文と少しばかり意味もちがってきます。

この,二つとも一緒に文頭におくことができるということは,この二つが,二つの「文肢」(文の要素を単価として見るときには「文肢」という)ではなくて,まとまった一つの文肢であることを証しています。

わかり切ったことですが,文頭に主語以外の文肢をもってくるときには,二つ以上の文肢をもってくることは許されません。Ich bin ihm oft auf der Straße begegnet. の順を変えるとき,Ihm oft bin ich auf der Straße begegnet. といったりすることはできないのです。定形の前にあるのはかならず一文肢です。ですから Im Garten auf dem Rasen は一文肢です。

いままでのは「位置」を述べる副詞句でしたが,これが「方向」を表現する句になっても関係はまったく同じです:

(1) Er ging nach Tokio zu seinen Söhnen.
かれは,東京にいるむすこたちの所へ行った。
(2) Er warf sich neben mich ins Gras.
かれは私のいたすぐ横の草の中にごろんと横になった。
(3) Ich reise zu meiner Mutter aufs Land[註2]aufs Land: Land の普通の意味は「国」や「陸」であるが,auf という前置詞と一緒に用いる場合には「田舎」の意になる。.
私は母のいる田舎へ出かけます。
(4) Sie kam zu mir ins Gefängnis.
彼女は私のいる刑務所へでかけて来た。
(5) Er trat zu seinem Vater in die Stube.
かれは,かれの父のいる部屋へはいった。

最後に,この種の併置副詞句の順序についてもちょっと考察しておきましょう。一般的に申しますと,たとえば前に出た im Garten auf dem Rasen がよい例ですが,場所の広い方を前に持ってきて大体の見当をつけたのち,次にはそれを狭く,詳しく規定していくのが普通です。

ただ,一方が人間になると話が少しちがってきます。たとえば,「母のいる台所へ」は zur Mutter in die Küche でもよし,また「台所にいる母のところへ」と考えて die Küche zur Mutter と云っても同じです。人間という奴は考え方によって,広い方(空間に非ず!)の規定でもあり,狭い方の規定でもあるわけで,人間と場所とが並ぶときには,どちらが先でもよろしいことになるのには理窟があります。


以上は,場所の副詞または副詞句を主にして述べて参りましたが,これは話を簡単にするためであったので,その外に時の副詞もあり,また時と所とが一口で表現されることも起ってきます。たとえば,「明日おひる頃」は,morgen um die Mittagsstunde といい,「晩の七時に」は abends gegen 7 Uhr というなど,時の表現もほぼ同じ関係になります。また,この abends gegen 7 Uhr は逆にして gegen 7 Uhr abends といってもよいという点も,さきに述べた場所表現法と同じです。

また,このように,時と所とを区別しはじめると,厳密を期せんがために当然附け加えなければならないのは,

morgen auf der Schule
明日学校で
neulich im Kino
最近映画館で
im folgenden Sommer in Karuizawa
その次の夏軽井沢で

等の句も,前半が時の副詞(句),後半が所の副詞句であるにもかかわらず,これはまた一文肢として扱われてよろしいという点です。というのは,単にこうして切りはなした形で挙げただけではわかりませんが,文章の一ばんはじめに置いてみるとよくわかります:

Im folgenden Soommer in Karuizawa lernte ich zwei Deutsche kennen.
翌年の夏軽井沢で私は二人のドイツ人と近づきになった。

lernte という定形の位置に注意すれば,その前全部が一つのまとまった文肢であるにちがいないということがわかります。

   [ + ]