第七講 擬音副詞

Krach! war die Tür zu.
  ピシャン!と扉がしまった。

日本語には,ピシャン,ポカッ(と殴る),ドタン,ツルリ,キチッ,バリッ,といった擬音詞が非常に豊富に発達しています。音響「を」言葉でまねるばかりではない,動作の様相を音響「で」まねるのすらあります(たとえば,キチンとしているとか,スラスラ運ぶとか,クングン伸びるとか)。

こういうものは,西洋語は日本語ほど豊富ではありません。これはつまり,西洋人の言葉は我々の日本語よりもずっと抽象的であり,感能性を失ってしまったことを証するものだろうと思いますが,しかし,日本語ほどではないにしても,多少ないことはありません。「ピシャン」とか「バタン」とか「バリッ」とか「ガチャン」とかにあたる krach ! や,ドテン,トタン,にあたる perdauz! plauz! 「サッと」,「ヒョイと」にあたる husch! hui! などがそれです。

これらの語は,品詞からいうと,何の部類にはいるかというと,まず副詞というの外はありますまい。従って,その文章内における位置,配語法などは,副詞のそれと等しくなります。Im Nu war die Tür zu. (瞬時に扉はしまった)という im Nu と同じ位置に krach! をもってきて,Krach! war die Tür zu. というか,或いは Die Tür war krach! zu. というかです。この際,! の印がはいるために,一見そこで文章が終ってしまったかのように見えますが,そうではありません。この ! は,文章の終りだからというので用いた句読点ではなく,擬音詞だからつけたものにすぎません。それゆえ Die Tür war krach! zu. といったような妙なことになるわけですが,これはどうにも致しかたがないのです。

もちろん,krach! は,もう少し独立性を帯びて,ほとんど文章であるかのごとくに取り扱われることもあります。たとえば,

  Krach! da war die Tür zu.

と,da を入れることもありますが,こうなると krach! は,文の一部分,すなわち副詞的な「文肢」としては感ぜられません。しかし,扱い方はやはり,次の文と密接に関係のある一部分として考えられているわけで,その証拠に da は大抵小文字で書きます。

同じ例を引用しますと:

ステン!と子供はころんだ。
(A) Plauz! lag das Kind.
(B) Plauz! da lag das Kind.

また,完全に副詞化しますと,! の印は不用のこともあります。

Er trug den Betrunkenen huckepack die Treppe hinauf.
かれはその酔っぱらいをヨイトコセのドッコイショとかついで階段を昇って行った。

これは別なことですが,日本語の「ヨイトコセのドッコイショ!」というのを発音してみると,中間にはいっている「の」というなんでもない字が非常におもしろいではありませんか。これはつまり,ゆとりを取って,途中で一息入れるための字であるらしい。すなわち,ヨイトコセ!と気合を入れて一足踏み出してはみたものの,さてその次のドッコイショ!が急なことでは出てこないから,その間の元気のぬけたところを(これを称してツマリ間が抜けるというのですが)胡麻化して体裁よく取り繕うために「の」というのです。こんな事はマア日本人にむかって説明するのがそもそもおかしいですが,その「の」と丁度同じものがドイツ語にもあると申しあげたら,これは新知識でしょう?

それは ,,di” という綴です。ヨイトコセのドッコイショは,huckepack とか huckeback とかいうのが普通ですが,なんなら間に di をはさんでhuckedipack といってもいいのです。また,「あたふたと」或いは「取る物も取り敢えず」を holterdipolter といいますが,これは必ず di を入れます。その他,「ムニャムニャと」頬張ってたべるのは schwupp! wupp! でもよいが,これも,ゆとりを取って大儀そうに発音するには schwuppdiwupp! の方が効果があります。また,鍛治屋さんがトッ,チッ,カン,トンチンカンと叩いているのも,pinkepank ですが,これも pinkedipank といえば,また pinkepank とは変った面白いリズムが出来ます,等々等々。

あんまり漫談ばかりになってもいけませんから,次に擬音副詞の類例を若干挙げることに致しましょう。

(1) Klatsch! schlug ihm das Wasser ins Gesicht.
ピチャッ!と水がかれの顔にかかった。
(2) Husch! sprang er zur Türe hinaus.
サッとかれは扉口から飛び出した。
(3) Flüt! gellte die Pfeife des Polizisten.
ピリピリ……と警官の呼子が嗚った。
(4) Ruller ruller kam die Elektrische dahergefahren.
ゴロゴロと電車があちらからやってきた。
(5) Klirr! klirr! tanzten die Gläser auf der Tafel.
ガチャッ!ガチャッ!とコップがテーブルの上で踊った。